2024年4月、「大阪府のJR総持寺駅の新設により、4年間で駅周辺住民の一人当たり医療費が累計10万円削減された」という研究結果が発表されました。
なぜ駅が新設されるだけで医療費が削減されるのでしょうか。その理由について詳しく解説したいと思います。
駅へのアクセスが健康に影響を与えるメカニズム
これまでの研究結果を総括した別の論文で、交通と健康との関連が図にまとめられています。健康に寄与する理由として14個の経路が挙げられていますが、そのうちの一部を紹介します。
駅やバス停を使う際、自然と歩いている
公共交通機関が家の近くにあれば、毎日の通勤や旅行で交通機関を利用することで、自然と歩くことになるため、身体活動量が増えることがわかっています。反対に、車による移動は座っている時間を増やし、肥満や他の病気のリスクを上昇させます。最初に紹介した研究においても、駅の新設によって、人々が車から電車へ移動手段を変更したことで身体活動が増加し、医療費の削減につながった可能性が推察されています。
病院やスーパーなど、健康維持に必要な目的地へのアクセスの改善
高齢者や障害のある人など、長距離歩行できない人にとっては、公共交通機関までの距離が遠いと、電車やバスを利用できない可能性があります。それにより、あらゆる目的地へアクセスすることが難しくなります。
例えば、病院から遠く離れて住んでいる人は、健康状態の悪化と関連していることがわかっています。病院へのアクセスを確保するためにも、交通機関は重要です。また、スーパーや食料品店へのアクセスにも交通機関は関わってきます。車の利用ができず、さらに徒歩圏内に生鮮食料品店がない高齢者では、死亡リスクが増加することが日本国内の研究で観察されており、そうした人にとって、自宅から利用しやすい交通機関がアクセスを改善させる可能性があります。
車を利用しないアクティブな移動は、環境にも体にも良い
車社会は、大気汚染、温室効果ガスの排出、騒音を引き起こします。これらは全て、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患を含む、様々な病気のリスクを上昇させます。例えば2011年のWHOの発表によると、西欧だけでも、道路交通騒音により健康寿命が100万年分失われているとされています。徒歩や自転車、公共交通機関といったアクティブな移動手段に移行することで、そういった環境への負荷を減らすことができます。
健康のためには、公共交通機関が街にどのくらい必要なのか
世界五大医学雑誌の1つであるLANCETがまとめた論文によると、世界の10カ国14都市を対象とした国際的な研究において、普段から移動のために歩行している人が人口の8割以上を達成するには、1平方キロメートルあたり28個以上の駅やバス停が必要であると試算されています(この数字をそのまま適応できるかどうかは都市ごとに検討が必要であり、あくまで参考程度です)。
あらゆる都市政策に健康の視点を
医療費削減に繋がる都市政策は、健康政策にもなり得ます。
WHOは、Health in All Policies(すべての政策における健康)という概念を提唱しています。あらゆる分野の政策が健康に影響を与える可能性があるため、部門を越えて連携しましょう、というものです。
健康と環境に関するWHO等のガイダンスでは、アクティブ・モビリティ(自動車ではなく徒歩や自転車等の交通手段)を促進し、コンパクトな地域を実現する交通・都市計画政策を進めるために、交通・都市計画分野に加え、健康や環境、経済、雇用、教育といった多部門が関わることが推奨されています。
都市政策の策定にあたっては、セクター間の垣根を越えて、医療・健康分野と連携することが必要です。住むだけで自然と健康になれるまちづくりの実現が求められます。