今流行りのWell-being(ウェルビーイング)は、メンタルヘルスと何か違うのか

ライフスタイル

企業経営という文脈で、近年盛んに取り上げられるようになったウェルビーイング。
巷では様々言われていますが、実はウェルビーイングには、現状一律に決まった定義はありません。
WHOによると、ウェルビーイングとは
・個人や社会が経験するポジティブな状態であること
・日常生活の源であり、社会的、経済的、環境的状況によって決まること
・生活の質と、人々や社会が意味と目的を持って世界に貢献する能力が含まれること
などと述べられています。

ただし、ウェルビーイングを測るする方法は複数あります。
1つの論文をもとに、古代ギリシャを起源とする2つのアプローチをご紹介します。

ヘドニック・ウェルビーイング

「快楽主義的」と訳されるヘドニックは、生活満足度、肯定的な感情、否定的な感情を主な3要素としています。以下にウェルビーイングを測定する質問例を示します。

  • 生活満足度:「あなたの生活・人生は、0〜10点のうち何点ですか?」
  • 肯定的な感情:「過去 30 日間で、どれくらいの時間を明るい気分で過ごしましたか?」
  • 否定的な感情:「過去 1 年間で、絶望を感じた時間はどのくらいありましたか?」

ユーダイモニック・ウェルビーイング

もう1つのアプローチであるユーダイモニックには、自律性、環境の管理、個人的成長、他者との良好な関係、人生の目的、自己の受け入れという6つの構成要素があります。

  • 自律性:「たとえ他の人の考え方と違っていても、私は自分の意見に自信を持っています。」
  • 環境の管理:「私は日常生活における多くの責任を管理するのが得意です。」
  • 個人的成長:「私の人生は、学び、変化し、成長し続けています。」
  • 他者との良好な関係:「私は家族や友人との個人的な会話や相互の会話を楽しんでいます。」
  • 人生の目的:「私は人生の目的と方向性を持っています。」
  • 自己の受け入れ:「自分の人生の物語を振り返ると、どのように進んできたかに満足しています。」

ヘドニックはHappiness(幸せ)を主に測定していますが、ユーダイモニックは自律性や個人の成長、人生の目的といった項目に重点を置いている点で異なります。この両者はもちろん類似している指標なので、互いに強く相関しますが、両方を同時に測定することで、より多面的にウェルビーイングが評価できるとされています。

メンタルヘルスとは:WHOの定義

それでは、ウェルビーイングと似た概念であるメンタルヘルスとは何でしょうか。
現在最も広く使用されているのは、WHOの定義です。

「メンタルヘルスとは、人々が人生のストレスに対処し、自分の能力を発揮し、よく学び、よく働き、地域社会に貢献することを可能にする、精神的に幸福な(ウェルビーイングな)状態」であり、加えて、「単に精神疾患がない状態を指すものではない」と述べられています。

この定義によると、メンタルヘルスには幸福(ウェルビーイング)を達成することが含まれており、ウェルビーイングの方が広い概念ということになります。

しかし上記の定義では求めるものが多すぎるのではないかと、異を唱える論文が発表されていたのでご紹介します。

WHOの定義の問題点

“Mental Health Without Well-being”と題されたこの論文によると、WHOの定義である「自分の能力を発揮し、よく働き、地域社会に貢献」できている人は決して多くないはずであり、ほとんどの人がこのテストには合格しないだろうと述べられています。
これは本当にその通りだと思います。非常に要求が厳しい定義になっています。

加えてこの定義では、「人は地域社会の重荷になってはならない」ことを示唆していること、さらに、不幸、怠惰、依存などを医療化してしまうことも問題とされています。以前は医療の問題とされてこなかった不幸や怠惰が、医療に組み込まれてしまうということです。

この医療化の問題例としてよく挙げられるのが、学校の勉強についていけない子どもを病気として扱うことです。メンタルヘルスという医療の範囲を広げることに意義や正当性があるのか、またその危険性を考慮しながら議論を進めていくことが必要とされています。

まとめ

メンタルヘルスを、精神疾患の有無と定義するのはあまりに定義が狭すぎますが、現在のWHOの定義では達成するのに条件が厳しすぎるため、今回の論文ではその中間択として、メンタルヘルスを「私たち一人ひとりが人生を大切にし、人生に関与できるように感じ、考え、行動する能力」と定義し、メンタルヘルスはウェルビーイングの必要条件(ただし十分条件ではない)とみなすことが提案されています。

つまり、メンタルヘルスとウェルビーイングはWHOの定義のように同一のものではなく、メンタルヘルスの方がより広い概念である、ということです。

今もなおメンタルヘルスとウェルビーイングの論争は続いており、結論が出るのはまだ先になりそうです。

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