ラホールの郊外には、世界一かっこいい国境とも称されるワガ国境がある。ここは、何度も戦争を経験し、世界一仲が悪い隣国と言われるインドとパキスタンの間で唯一開かれている国境だ。毎日、国境閉鎖後の日没時に両国の国旗を降ろすセレモニーが開催されており、その歴史は60年以上にも及ぶ。せっかくの機会なので、実際に訪れてみることにした。
以前は市内からバスで1時間かけて行くしかなかったが、現在は地下鉄が開通し、東の終点駅まで地下鉄で行き、そこからリキシャで約20分で到着できる。
リキシャに乗ると、排気ガスを含んだ風が容赦なく吹き付けるため、サングラスが必須だった。しかし、市街地を抜けて国境に近づくにつれ、大気汚染も気持ち和らぎ、道端には荷物を運ぶロバや放牧される牛の姿が見られるようになった。

国境に到着すると、巨大なパキスタン国旗のポールが目に入り、その奥にはインドの国旗も見えた。高揚感と緊張感が高まる。やがて、大きな茶色のスタジアムが姿を現した。

セキュリティチェックは厳重で、大きな荷物は預けるよう指示された。テロ対策がしっかりしているようだ。入場料は無料。スタジアムは1階が外国人観光客やVIP用、2階がパキスタン人用で、左側に女性、右側に男性が座る形になっていた。バスツアーで来ていた外国人観光客は1階席に座っていたが、僕らは現地の子供たちに誘われるがまま2階席へ。そのまま、地元の人々と一緒に観覧することにした。
ゲートの向こうはインド。2階席からはインド側の観客席もよく見えた。両国の兵士たちがゲートを挟んで睨み合っている。セレモニー開始前にもかかわらず、すでに爆音の音楽が鳴り響いていた。パキスタン側では軍歌、インド側では大音量の音楽が流れ、まるで音量勝負のようだった。特にパキスタンの軍歌がかっこよく、Shazamで検索しようとしたが、国境では電波が入らず圏外。後に撮影した動画をもとに音楽をダウンロードすることができた。
スタジアムには、パキスタン独立の指導者ムハンマド・アリー・ジンナーの巨大な写真が掲げられていた。続々と観客が増え、気づけば周囲は遠足の子供たちでいっぱいになっていた。国同士は緊張関係にあるが、子供たちはどのような気持ちで参加しているのだろうか。英語は通じなかったが、彼らは興味津々に話しかけてくる。
スタジアム内では、国旗のフラッグやポップコーン、コーラが売られており、まるで野球観戦のような雰囲気だった。全てを購入し、観戦に備えた。
ふとインド側を見ると、明らかにパキスタン側よりも観客が多かった。3階席まで埋まり、1階席の立ち見エリアにも多くの人がおり、音楽に合わせて旗を振っている。インドはパキスタンの6倍の人口を持ち、観光客の数も桁違いだ。この時点ではパキスタンの完敗。しかし、会場には鼓舞するような音楽が流れ、ボルテージが上がっていく。

音音楽が止み、パキスタンの兵隊たちが整列。全身黒い衣装をまとい、扇のついた帽子を被り、2メートル近い長身の兵士たちが登場した。一人がマイクを握り、声を張り上げる。インド側も同様に応戦し、どれだけ息を長く続けられるかを競い合う。
結果はパキスタンの勝利。会場が沸き上がる。この競争は何度も繰り返され、全てパキスタンが勝利した。インド側が多少手加減しているのかもしれないが、フラッグを振って応援しているうちに、いつの間にか愛国心のようなものが芽生えていた。
次に、太鼓の音に合わせて兵士たちが行進。立ち止まり、両手を上げて威嚇するポーズをとる。インド側の兵士も同じようなダンスを披露する。

ついにゲートが開き、兵士たちは高く足を振り上げるパフォーマンスを披露。
観客席の応援団員が「もっと声を出せ!」と煽り、観客も掛け声を叫ぶ。子供たちに教わり、僕らも真似して叫んだ。
「アッラー、アクバル!(アッラーは最も偉大なり)」「パキスタン、ジンダーバー(パキスタン、万歳)」「ジンダージンダー、パキスタン!(いけいけパキスタン)」
会場の熱気は最高潮に達した。
一連のパフォーマンスが終わると、最後にラッパの音とともに国旗がゆっくりと降ろされる。両国の旗が常に同じ高さに保たれるよう慎重に降ろされ、最後に兵士たちが力強く握手を交わした。そして、ゲートが閉まり、セレモニーは終了。
まるでアーティストのライブ終演後のような興奮が冷めやらぬまま、満足感で満たされていた。ラホールで最も印象的な体験だった。一度は訪れる価値がある。人々の様子を見ていると、政治的な緊張とは裏腹に、どこかでインドとの「ライバル関係」を楽しんでいるようにも見えた。このセレモニーが毎日60年以上続いていると考えると、むしろ両国は仲が良いのではないかと思えてくるほどだった。