2019年にヨルダン、2020年にサウジアラビアとエジプトを訪れた。ヨルダンやサウジアラビアでは、人々の優しさに胸を打たれ、エジプトでは壮大な文明の遺産に圧倒された。砂漠での寝泊まりも忘れられない思い出だ。

それから5年。妻と「次はどこに行こうか」と話していた。
妻はアジアの途上国が好きで、旅慣れた彼女はかねてから「ヨルダンのペトラ遺跡と、エジプトのシャルムエルシェイク、そしてイランに行ってみたい」と言っていた。
幸い、ペトラのあるヨルダンとシャルムエルシェイクに関しては、紅海をフェリーで結ぶ陸路ルートが存在しており、一緒に回ることができそうだと分かった。再びこの土地を巡る時が来たのかもしれない。あの頃は大学生だった。旅の目的も、感じ方も、今とはきっと違っていたはずだ。今の自分には、どんな景色が見えるのだろう。
ただ、エジプトに関しては少し迷いもあった。以前訪れたカイロやルクソールでは、大気汚染で喉を痛め、客引きやぼったくりに疲れ果てた記憶が残っている。水一本買うのにも交渉が必要で、精神的に消耗した。妻もカイロのピラミッドにはあまり興味がないようだった。そのため今回は一般的な観光地には立ち寄らず、ダハブやシャルムエルシェイクといったエジプトの沿岸リゾートに絞ることにした。

一方で、ヨルダンは前回、首都アンマンや死海、古代都市ジェラシュなど北部中心のルートを巡った。今回は、訪れていないヨルダン南部を選び、2度目のペトラ訪問も含めた行程を組むことにした。
さらに調べるうちに、サウジアラビアからヨルダンへは、陸路での国境越えも可能だと分かった。渡航者は少ないものの、バスやタクシーを乗り継げば移動できる。そして、ヨルダンとの国境に近いサウジアラビア北西部には、観光開発が進むオアシス都市「アルウラ」があり、歴史的遺産も多い。これら3カ国を陸路で縫うように巡る、12日間の旅を計画した。

2019年にはドバイまで往復6万円台、2020年にはケニアのナイロビまでの往復で7万円台で航空券を確保できていた。しかし今や、15万〜20万円が当たり前の時代。悩んだ末に選んだのは、東京→ドーハ(カタール)→アルウラ(サウジアラビア)というカタール航空のルートだった。
ビザが必要なのはサウジアラビアのみ。エジプトは南シナイ地域のみを訪問する場合はビザ不要のため、事前にサウジアラビアのe-Visa(約16,000円)だけを取得して出発に備えた。価格は2020年当時と変わらず高かったが、それでも行く価値があると信じていた。

出発当日、羽田空港へ。搭乗したカタール航空のドーハ便はJALとのコードシェア便だった。
チェックイン時、目的地を「アルウラ」と告げると、JALの地上スタッフは困惑した表情を見せ、一度裏へと姿を消した。
それも無理はない。アルウラへ向かう国際直行便は、このカタール航空の週2便とドバイ便の週3便のみ。多くの人はリヤドやジェッダから国内線を使って向かうのが一般的だ。
しかし搭乗後、トラブルが発生した。荷物を預けた後に搭乗をキャンセルした乗客のせいで、出発が30分遅延してしまった。乗り継ぎ時間が1時間35分しかなかった自分たちには、かなり厳しい状況だった。心配を抱えたまま眠りにつき、目が覚めるとCAから声がかかる。
「お客様の乗り継ぎ時間が短いため、着陸直前にビジネスクラスのお席にご移動いただきます。他の乗客よりも早く降りていただけます。」
まさかの人生初のビジネスクラス体験。バックパックを背負って前方の席に移動すると、そこには圧倒的な空間と快適さがあった。足を伸ばせるシートに驚きつつも、場違いな感覚は拭えなかった。

全乗客の乗り継ぎ時間を把握したうえで、最も乗り継ぎ時間が短かった僕らにこうして配慮してくれる。その対応の丁寧さと的確さには、正直驚いた。JAL以外で、ここまで乗客に寄り添ったサービスが可能なのだろうか。人生初のビジネスクラス体験も含めて、JALには心から感謝している。
着陸時も結局そのまま30分遅延していたが、幸いにも荷物は預けていなかったので、ロストバゲージの心配はない。ただ走るのみ。広大なハマド国際空港の中を、次の搭乗ゲートまで全力でダッシュする。走っても走っても目的地が見えない中、途中で息を整えながら進む。
そして――なんとか間に合った。搭乗口ではちょうどが呼ばれていた。乗客が少ない便だったため、最終搭乗締切という概念はなく、その場に集まった全員がバスに乗ると搭乗終了となる方式だった。

本当にギリギリだった。
でも、間に合った。アルウラ行きのフライトに乗れた安心感で、ようやく気持ちが落ち着いた。
