静寂のアルウラ旧市街を歩く【アラブ・紅海陸路越境旅2025】vol.1

旅の記録

アルウラ空港に着陸した瞬間、まず感じたのはその小ささだった。2021年に国際空港として整備されたばかりだという。
到着ロビーは静まり返っていて、僕らの便以外に乗客らしき姿は見えない。
入国審査も拍子抜けするほどあっさりしていた。事前に申請していたeビザを提示すると、審査官はにこりと笑って、「先週のサッカー見たか?日本とサウジアラビア、0対0だったな!」と一言。所要時間はわずか2分だった。

アルウラ国際空港

空港から市内までは20〜30分ほどかかる。事前情報では「タクシーはないからレンタカーか宿の送迎を頼まなければならない」とあったため、念のため宿に連絡してみた。しかし、「空港の前にタクシーがいるはずだから、それに乗ってきてくれ」という返答だった。

半信半疑で外に出てみると、確かに数台の車が並んでいる。車体に「Al Ula Taxi」と書かれ、公式のタクシーのようだ。どうやら最近導入されたらしい。

車の外でのんびり煙草をふかしていたドライバーに声をかけると、乗車を案内してくれた。彼はバングラデシュからの出稼ぎ労働者で、英語で軽く会話を交わしながら宿まで送ってくれた。

3月末だというのに、空気は乾き、日差しは肌を刺すように強い。長袖では到底やっていけない暑さだ。宿に荷物を置き、さっそく旧市街へと向かう。

街並みは驚くほど整えられ、周囲の砂漠と調和しながら、歴史の面影を色濃く残していた。旧市街のメインストリートは、かつて商人や巡礼者が行き交った道沿いに、800年前からの泥レンガ造りの家々を改装して作られたもので、内部はカフェやお土産店に姿を変えている。2023年に完成したばかりの新しい観光地だ。

しかし、歩いている人影がほとんど見当たらない。店も軒並み閉まっている。
「今日は休日なのか?」とも考えたが、カレンダーは日曜日。サウジアラビアの休日はたしか金曜と土曜のはずだ。近くにいた女性に聞いてみると、「午後になったらそのうち開くと思うわ。何時になるかは分からないけど」と、のんびりした口調で答えてくれた。

人のいない通りに、乾いた風と砂埃だけが舞っていた。
開いていたのは、まさかのDunkin’だけ。伝統的な泥レンガの街並みにピンクとオレンジのロゴが妙に映えていて、もはやここではDunkin’ですらおしゃれスポットに見える。気づけば喉がカラカラで、僕も1杯、休憩していくことにした。

その後昼食をとれる店を探し歩いた末、唯一営業していたのは、ホテルに併設されたレストランだった。
Dar Tantora The House Hotel。2024年にオープンした新しい宿で、エジプト人建築家が伝統的な泥レンガの住宅を改装したという。迷路のような通路が入り組む内部は、ひんやりと静まり返り、どこか秘密基地のような雰囲気がある。

地元の食材を使ったサウジアラビア料理が楽しめると聞き、オリーブや野菜のオイル漬け、サムサ(中東風の揚げパイ)、鶏肉のグリルを注文した。どれも優しい味で、長旅の疲れをゆっくりと癒してくれた。

旅のメモ①:アルウラの観光情報
レンタカーを借りていない場合、アルウラでの移動にはタクシーが必須になる。Uberは登録台数が少なく、なかなか捕まらない。そのため、中東で主流の配車アプリ「Careem」の利用をおすすめする。ただし、郊外にあるマラヤ(Maraya)やエレファントロック(Elephant Rock)などからは、Careemですら捕まらないので、事前にタクシーを手配しておくのがベター。

また、アルウラは宿泊施設の選択肢が少なく、いわゆる“ゲストハウス”のようなカジュアルな宿はほとんど存在しない。僕が宿泊した宿は、Google MapsではApartments of Abu Aliという名前の宿だ(※Booking.comでは別の名前で登録されている)。これまで多くの日本人旅行者が利用していて、口コミも蓄積されており安心感があった。部屋は清潔でホットシャワーあり。オーナーがとにかく親切で、無料で朝食を買ってきてくれたり、バスターミナルまで送ってくれるなど、至れり尽くせりの対応だった。

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