未来の中東No.1砂漠リゾートへ アルウラ探訪【アラブ・紅海陸路越境旅2025】vol.3

旅の記録

日が傾き始めた頃、アルウラ旧市街に戻ると、通りには人の姿が増え、店も次々と開き始めていた。白いトーブの男性、黒いアバヤ姿の女性たちが行き交い、街に活気が戻る。

そこで初めて気づいた。この街は夕方にならないと本格的に動き出さないのだ。
多くの店は17時前後から深夜2時頃まで営業し、公共図書館ですら16時から0時の開館だという。

こうした夜型の生活は、夏には気温が50℃近くに達する厳しい気候と、ラマダン期間中は日没後しか食事を取らないという宗教的習慣が相まって定着したのだろう。日本も年々暑くなっているが、夜も蒸し暑い日本の夏では、このようなライフスタイルへの移行は難しい。日中の酷暑と夜の涼しさが際立つ砂漠気候だからこそ可能なのだと実感した。

旧市街の泥レンガ造りの家々はすべて低層で、広いオープンスペースを通して背景の赤茶の岩山が望める。地域環境に根ざしたこの景観は、地域性を無視したマラヤ・コンサートホールとは対照的だ。

この街は「世界最大の生きた博物館」にするという国家プロジェクトの一環として再生されている。
旧市街は1980年代まで人が暮らしていたが、その後、住民は新市街へ移転。残された建物群は保全・修復され、今に至る。800年前から人が住んでいた家も多いという。柱を持たない壁式構造で、泥レンガに藁と水を混ぜた素材を使用。雨が少ない土地だからこそ維持できる建築様式だ。

建物は柱を持たない壁式構造で、泥レンガに藁と水を混ぜた素材を使用しているようだ。雨が少ない土地だからこそ維持できる建築様式だ。昔の建築法で作れる技術者がまだいるのだろうか。

迷路のように入り組んだ路地を進むと、ひんやりとした影が心地よい。壁の間からふと現れた少年が、笑顔で「Hello」と声をかけてくる。旅行者への好奇心がそのまま表情に浮かんでいる。

アルウラはもともと砂漠のオアシス都市で、オマーンやイエメンからペトラへ至る交易ルート上の中継地として栄えた。旧市街近くには今もヤシの木が群生するオアシスが広がり、道路を横断すればすぐにアクセスできる。歩行者信号のボタンを押すと、すぐに青に変わった。

オアシスでは畑が広がり、鳥のさえずりが響く。密集したヤシの木陰は驚くほど涼しく、葉の間からわずかに光がこぼれている。かつての商人たちも、この涼しさに癒されたに違いない。

オアシス
オアシスに面する、地元産食材を使ったレストラン

オアシス沿いには地元食材を使ったレストランやスターバックスがあり、壁は街のテーマカラーである茶色で統一されている。女子高生らしきグループが笑い声をあげながら入り、「matcha」を次々に注文していた。抹茶人気はここアルウラにも届いているらしい。

そしてスタバの店員は女性だった。街では女性グループが夜に外出している姿も目にすることができる。2020年に訪れたジェッダでは見られなかった光景だ。ムハンマド皇太子による女性の社会進出促進が確実に形になっていると感じる。

夕食を取ったレストラン。女性だけのグループも多い。

夕食は旧市街メインストリート沿いの屋外レストラン「Grandma Recipe」へ。岩山を背景に、この地域の伝統家庭料理をコースで提供する珍しい店だ。はちみつをかけた薄いパン、野菜たっぷりの優しい味わいのスープ2種、紅茶、スイーツが付き、2人で1,400円ほど。この国の物価を考えると破格だ。

旧市街の街並みはどこを切り取っても絵になる。ベランダや室外機といった設備も黄色や茶色の格子で覆い、景観に溶け込ませている。イギリスの建築事務所が作成した景観ガイドラインに基づき、伝統と地域資源を生かした開発が徹底されているのだ。

さらに、アルウラ空港と主要観光地を結ぶ路面電車の建設計画も進行中で、早ければ2027年に完成予定とのこと。郊外ではホテル建設も進んでいた。近い将来、ここが中東随一の観光地となる可能性は十分にあると感じた。だからこそ、豊かな自然や伝統を守りながら、環境にも配慮した持続可能な観光開発が望まれる。

夜が更けるにつれ、空は群青から漆黒へと変わり、砂漠の冷たい空気が頬を撫でる。見上げれば無数の星が街を包んでいた。その星空を見上げながら、この街の未来にもまた、新しい物語がそっと芽吹いていく気がした。

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