ギルギットの住民の家で見えた、パキスタンの健康課題【パキスタン旅】vol.10

旅の記録

今夜は、友人が中国-パキスタンの国境を越えた際に知り合った現地住民の家に泊めてもらうことになっていた。スストを離れ、目的地のギルギットに到着したときには、すでにあたりは暗くなっていた。

夕食まで時間があったので、家の裏にある山へ散歩に連れて行ってもらうことにした。この辺りでは、最も景色が良い場所らしい。
ギルギットの街は、数多くのお店が立ち並び、交通量も多く活気にあふれていた。古くから市場の町として栄え、州最大の都市でもあるこの街には、約33万人が暮らしている。

案内された山には道らしい道はなく、スマホのライトを頼りに、岩が転がる斜面を慎重に登っていく。家の主人は、まるで舗装された道を歩くかのように軽やかに岩の上を進んでいく。一方、僕はスマホのライトだけでは足元が見えづらく、岩に足を取られることもしばしばだった。息を切らしながら、ようやく後を追う。

登る途中、彼はひたすらテンション高く話しかけてくる。名前はジャヴェット。40歳くらいの長身の男で、カメラマンや警備員など多岐にわたる仕事をしており、つい先日まで仕事でウイグル自治区に行っていたという。そして、僕らがフンザで合流した友人とともに、クンジュラブ峠を越えてパキスタンに戻ってきたそうだ。

写真左がジャヴェット

ギルギットやフンザがあるギルギット・バルチスタン州の住民であれば、特定の条件のもと、ビザなしで中国に入国できるらしい。
「パキスタンでおすすめの街は?」と尋ねると、ジャヴェットは即答した。

「ペシャワールだ。」

ペシャワールと言えば、アフガニスタンで2019年に銃撃されて亡くなった中村哲先生が、最初に活動を始めた街として知られている。中村哲先生が現地代表を務めたNGO「ペシャワール会」も、この街の名が由来だ。

ペシャワールは、かつてシルクロードの要衝として栄えた街で、首都イスラマバードから北西に車で3時間ほどのアフガニスタン国境近くに位置する。旅人の間では「アフガニスタンへの入り口」としても知られるが、近年は治安が悪化し、数十人が亡くなるような大きなテロが頻発している。

パキスタン北部の危険情報 外務省海外安全ホームページより

そんな危険な街にもかかわらず、ジャヴェットは興奮気味に「ペシャワール、ハネムーンも最高だぞ。ペシャワール・ハネムーン、グッド」と連呼していた。思わず吹き出してしまう。

今のペシャワールにハネムーンで行けば、人生そのものが終わってしまう可能性も高い。2人まとめて爆弾で吹き飛ぶのも、それはそれで良いという考えもあるかもしれないが‥僕の妻には絶対反対されるだろう。

山の上まで登ったものの、ぼんやりとした街の光が霞んだ空気の中に溶け込むように広がるだけだった。その光景は、ギルギットのインフラ不足と大気汚染の深刻さを物語っていた。

眼下には、カラコルム国際大学のキャンパスが広がっていた。この大学はパキスタン国内のフンザやスカルドゥにもサテライトキャンパスを持ち、中国やアフガニスタンからの留学生も多いという。ジャヴェットは、この大学の仕事にも関わっているらしい。

やがて夕食の時間になり家に戻ると、皆キッチンに集まった。「ゲストは座ってていい」とのことで、目の前でカレーを作る様子を眺めていた。

次の瞬間、シェフの驚きの行動に目を疑った。

500mlペットボトルほどの大きさのボトルに入った油を、一気に全て鍋に注ぎ込んだのだ。
注ぎ込んだ油が一瞬で鍋全体に広がり、カレーというより油鍋のようになった。今夜は8人分のカレー。つまり一人当たり50ml以上は油を摂取する計算になる。毎日胃もたれする理由も納得だった。

そして今日も、昼に食べたカレーのせいで、僕の胃袋はすでに悲鳴をあげていた。出来上がったカレーを見ても、食欲が全然湧いてこない。スプーンを入れると、ルーの表面には厚い油の層が浮かび上がっていた。

すると、数口食べて手が止まった僕を見て、ジャヴェットがバナナを差し出してくれた。

何も言っていないのに、気が利きすぎる。パキスタン人のホスピタリティは異次元だった。とびきりの感謝を伝えながら、バナナを完食した。

それにしても、これだけ油まみれのカレーを日常的に食べていて、パキスタン人の健康状態は大丈夫なのだろうか。

2016年に行われたパキスタン全土の成人調査によると、96%が脂質異常症を患っているという驚異的なデータがある。さらに国民の7割が肥満とされており、心筋梗塞で亡くなる人も急増している。
パキスタンでは依然として乳幼児や妊産婦の死亡率が高く、また衛生状態が悪いので感染症の対策にも追われており、こうした生活習慣病の予防まで手が回っていないのが現状なのだ。
僕の血液も、確実にドロドロになりつつある気がした。

2019年には、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患がパキスタンの死因トップに変わっている(Khan SD et al.,2023)

食事を終え、そろそろ寝る時間となった。
パキスタンに来て3日目だが、まだ一度も温水シャワーを浴びれていない。連日の移動とイベント続きで、疲労も限界にきていた。明朝のイスラマバードに帰るフライトが無事に飛ぶことを願いながら、今日も埃に塗れたカーペットに倒れ込むように横になった。意識が沈むように、すぐに深い眠りに落ちていった。

【旅のメモ⑤】
Simカードについては、今回の旅では時間が限られていたので、事前にAiraloのeSIMを購入して使用した。イスラマバードやラホールなどの都市部では問題なく利用できたが、ギルギットやフンザでは中心地でのみ接続可能で、それ以外の地域では使用できなかった。基本的にどのsimを使っても、ゴジャール地域(上部フンザ)では携帯の使用が難しいようだ。

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