アルティット村の大家族の宴【パキスタン旅】vol.4

旅の記録

フンザ地方にあるアルティット村には、アルティット・フォートという古い城塞がある。

ここはかつて、フンザの統治者の本拠地として使用されていた。背後から敵が攻撃できないように、崖の上のギリギリのところに立っている。

天窓から城内に差し込むわずかな光を頼りに、歴史を感じさせる石造りの階段を登り、窓から外の景色を見ると、碧色に澄んだ川が谷底をゆったりと流れ、太陽の光に反射して輝いていた。かつてこの城で権力を握った統治者たちも、日々この景色を眺めながら、交易路を行き交う商隊や、遠くで起こる戦乱の行方に思いを馳せていたのだろう。

フンザ川と呼ばれるこの川は、下流でインダス川となり、最終的にはインド洋へと注ぐ。インダス川は2022年にパキスタンの国土の3分の1を水没させる洪水を引き起こし、大きな問題となっている。地球温暖化の影響で、雪溶け水の量が増えたことがその一因だという。今も多くの地域で水が引かないままだ。パキスタンのような貧困国では、気候変動による被害が甚大になる。主に先進国が引き起こす気候変動が、こうして遠く離れた国の人々の生活に影響を与えていることを改めて考えさせられた。

城から見たアルティット 歴史的な古い村である

村の道は迷路のように入り組み、塀が張り巡らされている。歩いていると、僕らのような外国人が珍しいのか、人々がよく話しかけてくる。フンザはウイグルやタシギスタンに地理的に近いためか、インド系の南アジアと違い、中央アジア由来のシャープな顔立ちの人が多い印象を受けた。

散策を続けていると、とある家から太鼓の音と歓声が聞こえてきた。お祭りでもやっているのだろうかと、音のする方を少し覗いてみる。すると、中から人が出てきて声をかけられた。

「こっち来ていいよ、どうぞ!」

突然のことで驚いたが、言われるがまま家の庭に案内された。

庭に入ると、想像以上にたくさんの人が集まっていた。子どもから老人まで、50人はいるだろうか。

このフンザ地方では、自分と子どもと孫の合計が1ダース(12人)になるとお祝いのパーティーをやるという。今日がまさにそのお祝いの日だったようだ。

パーティーの様子

庭では太鼓の軽快なリズムに合わせて、人々が円を描きながら踊り、笑顔と歓声が絶え間なく響く。子どもたちははしゃぎ回り、年配者たちは笑顔で手拍子を送っていた。僕らは振る舞われたチャイを啜りながら、その様子を眺めていた。家族の大切な日に、通りすがりの僕らを温かく迎え入れてくるその寛大さに感動し、自然と笑みがこぼれた。

この日は丘からサンセットを眺める予定だったので、そろそろ出ようと席を立ったところ、

「夜は空いてるか?」「みんなでディナーを食べるから、うちで一緒に食べないか」

と誘われた。
旅が上手くいきすぎている。パキスタン人の家で食事を共にするという、またとないチャンスが舞い込んできた。

イスラム教には、客人をもてなすことが美徳とされる文化が根付いている。その誠実さと心からの歓迎に触れるたびに、人と人とのつながりの大切さを改めて感じる。

以前訪れたイランでは、毎日何杯もチャイを振る舞ってもらい、サウジアラビアではイエメン人たちと毎晩カードゲームをしながら笑い合い、夜ご飯をご馳走してもらった。毎回心を動かされる、感動的な出来事だった。

しかし、現地の人の家を訪問したことはこれまで一度もなかった。これまでも招待されることはあったが、一人旅だったこともあり、知らない人の家に上がるのは少々不安があり断っていたのだ。
今回は大家族のパーティーだ。そして今日は僕以外にも2人連れがいる。

「ぜひ参加したい、夜になったらまたここに戻ってくるよ。」
そう返事をして、一旦その場を後にした。次はどんな体験が待っているのか、期待が膨らんでいた。

その後、アルティット村にあるデュイケルの丘に登った。丘から周囲を見渡すと、ラカポシ、レディフィンガー、フンザピークといった6,000m級の山々が鋭くそびえ立ち、その間を縫うように流れるフンザ川が遠くまで続いていた。目下には滞在中のカリマバードやアルティット村が小さく見える。フンザ地域一帯を照らす太陽がゆっくりと沈み、川が長い年月をかけて山肌を削り形作った雄大な谷が、オレンジ色の光に染まっていた。その壮大な景色に、ただただ圧倒されるばかりだった。大地と時間が作り出したこの雄大な光景の前では、僕たち人間の営みも一瞬の出来事にすぎないのだと思わされた。

デュイケルの丘

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【旅のメモ②】
ギルギット空港からフンザへバスで行く場合は、まず空港からギルギット市内のバスターミナルまでタクシーで移動し、そこからバスに乗り換える形となる。バスの所要時間は約2時間。
フンザでは冬がオフシーズンとなり、11月以降は閉まる宿が増える。当初予約していた宿も、宿泊前日に休業してしまったことがあったため、事前に営業状況を確認することをお勧めする。

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