雪で閉ざされた中国との国境-クンジュラブ峠-【カラコルムハイウェイ】vol.9

旅の記録

カラコルムハイウェイをさらに北上し、ついに最北の町スストに到着した。

遠くに緑や黄色に彩られたトラックが何台も並んでいるのが見えた。道路の両側には商店が立ち並び、カフェのテラス席ではトラックドライバーたちがタバコを吸いながら談笑している。フンザを出発してから初めて目にするまとまった町だった。

ここから先、中国との国境クンジュラブ峠までの道には、町も集落も存在しない。スストまで来る観光客も少なく、多くは氷河のあるパスー村で引き返す。

スストは、中国との貿易の拠点となっている町である。ここで輸入品がパキスタンのトラックに積み替えられ、全国に出荷される。逆にパキスタンの綿花や農作物がここに集められ、中国に輸出される。町には税関も設置されており、マーケットには、中国製のおもちゃや電化製品が溢れていた。

中国語付きのスストの看板
チャパティを作っている

スストを出発するパキスタンのトラックはすべて、日本の中古トラックを改造し、極彩色のペイントと金属細工の装飾を施した「デコトラ」と呼ばれるものだ。車体には極彩色のペイントが施され、金属細工の装飾が取り付けられている。走り出すと、カラフルな房飾りが風に揺れ、装飾がカチャカチャ音を立てる。ドライバーたちはそれぞれのトラックを誇りに思い、まるで走る芸術作品のように仕上げている。

パキスタン北部最果ての町ススト。異国の物資と、カラフルなトラックが行き交うこの町に、確かに旅の終着点としての雰囲気が漂っていた。

しかし、このトラック輸送が、パキスタンの深刻な大気汚染の原因の一つになっている。

現在、国内の貨物輸送はほぼ道路に依存しており、カラコルムハイウェイに鉄道を新設する計画もあるが、まだ計画段階にとどまっている。電気自動車の普及も遅れており、今後もディーゼルトラックによる環境負荷が続くことが懸念される。

コロナ禍では、中国側の厳格な感染対策により3年間国境が封鎖された。スストでは多くの人が職を失い、経済的に苦境に立たされたという。これほど厳しい措置が、本当に感染対策として有効だったのか。今後の検証が求められる。

それでも、再び国境が開き、スストには少しずつ活気が戻りつつあった。

町からさらに先は標高が一気に上がる。スストの標高は2,700mだが、国境の標高は約4,700m。たった2時間で標高が2,000m上がってしまうという驚異的な山道になっている。高山病にならないように、ミネラルウォーターをこまめに口に含んでいた。

スストを出るとき、ドライバーのアシュラフが僕らに聞いていた。
「もしかしたら国境まで行けないかもしれない。積雪が多く、この普通の車ではスリップしてしまうかもしれないそうだ。警備員に無理だと言われたら途中で折り返すしかないけど、それでも進むか?」
国境まで数時間というところまで来ている。もう一生ここを訪れないかもしれない。
僕らは話し合って、前に進むことに決めた。

スストの税関を通過 クンジュラブ峠を目指す

しかし、スストを離れるにつれ、道路脇の積雪が目立つようになり、そして道路の凍結も増えてきた。
アシュラフは、減速しながら慎重に運転を続けていた。

30km進んだところで、クンジュラブ国立公園に入るゲートにたどり着いた。この先は野生の動物が保護されている区域で、通過には別料金がかかる。
「ここから国境まではかなり雪が多い。(この車では)危ない。」警備員に止められた。

折り返すしかなかった。
目の前のゲートを、大型バスが通り過ぎていく。中国人と思われる人々が、バスの窓からこちらを眺めている。国境越えの公共バスなら問題なく通過できるようだった。 
唇を噛み締めながら、しばらくその場で立ちつくしていた。

クンジュラブ国立公園 このゲートを通ることは叶わなかった

僕らはその後カラコルムハイウェイを南下し、パスー村まで戻ってきた。
ここでパキスタン北部の郷土料理、ヤクのカレーを食べることになった。ヤクとは、チベットやインド・パキスタン北部に分布し、最も標高の高い場所で生息できる牛の仲間で、荷物の運搬や食用に利用されている。

道路を走る野生のヤク

雪を被ったカラコルム山脈を見ながら、快晴の中テラス席で味わうカレーは絶品だった。ヤクは牛肉に似た味わいだが、脂が少なくあっさりしており、パキスタンで食べたカレーの中で最も美味しかったと思う。

ヤクのカレー

【旅のメモ④】
スストより先のクンジュラブ峠の国境へ向かうには、途中でクンジュラブ国立公園に入ることになり、外国人は一人30ドルの入園料がかかる。しかし最近は40ドルに値上げされたという情報もあり、年々料金が上がっているようだ。また、冬季は閉鎖されるため、11月以降は通行が難しくなる。訪問を計画する際は、事前に最新の情報を確認することをおすすめする。
フンザより北のこの上部フンザ地域では、まだ規制が比較的緩く、中国産のアルコールを入手することもできるようだ。

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